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査定の失敗と改善計画(賃貸編)
様々な査定と評価
不動産業者にとって、切っても切り離せないのは賃料や売却価格の査定です。売買であり、賃貸仲介であり、管理であり。常に査定は重要なポイントとなります。
「いくらで貸せる?」「いくらで売れる?」「今は売り時?それとも待ったほうがいい?」など、考えれば考えるほど色々なクエスチョンが浮かび、そしてその答えは中々解決出来ないものです。今回は賃貸物件についての査定にフォーカスしてこのエントリーを書いていきます。
新築収益物件における「査定」の失敗
数十年にわたる収益物件として、新築時の査定は非常に重要です。この査定が今後の運用、売却に大きな影響をもたらすために収支バランスとストレスをかけた運営シミュレーションは多角的に実施し、リスクの検証を行う必要があります。
誰がこのシミュレーションを行うかで指針は大きく変わります。例えば開発側とコンサルタントが主導する場合は開発費用を捻出するために賃料に負荷がかかり、相場よりも高めに賃料が設定される傾向にあります。反面、運営側である管理側が主導する場合はスムーズな回転を重視するために賃料は相場通り、または少し下回ることもしばしば見受けられます。
どちらがよいということはないのですが、問題は開発側による帳尻合わせの賃料設定です。融資を受けることができて、建てられればOK…という感覚から繰り出される収入設計はまさに噴飯もの。協力会社に設備貸与をとことん押し付けることもあり、そうなるとおのずと賃料へ反映するコストも高額になるために良いとこ無しという結果になります。その状態で完成した建物は当然満室になることはなくただ月日が流れる…という状況に陥ります。デスループの入り口の完成でもあります。
デスループからの脱却と実例
新築から間もない状態で管理が移管されるケースのほどんどが前述のような査定によって運営を失敗しているケースです。こういった運営改善は弊社にとっても中々重い作業の一つで、慎重な計画修正を要します。
なお、中古で購入した場合は新築とは修正・査定方法は少々異なり、新築と比べると少しだけ修正の要件は軽くなります。既に過去からの運用モデルが目の前に存在し、履歴を閲覧・分解すれば修正プランは作成しやすい点が挙げられるほか、いい意味でアレンジの幅が狭いので比較的明確な対策が構成しやすいのです。
新築物件はそもそも新築時はだれが査定しているのか?によって大きくブレが発生する場合があります。当然ながら、市場価値に合わせた設定であれば問題は少なくなりますが、それが表面利回りやファイナンスのためだけによる算出であれば…時折悲惨な事件が発生します。
事例からの検証
モデルケースとなる物件を挙げて失敗事例を検証します。ご依頼いただいたご相談内容は竣工から3ヶ月、16部屋中4部屋しか入居しておらず返済が手出しの状態が続いており、早急な改善計画の立案と実行でした。この物件は3月竣工という年間で最も入居率の高まる時期を超えてなおこの状態なので、新築の優位性をやや失いつつあるために一刻も早い改善が求められます。
本物件の概要は下記のとおりです。
- 札幌市(地下鉄徒歩圏外、郊外)
- 2LDK、16世帯、駐車場16台
- RC造
- 55㎡~58㎡
- 賃料7万~8万、駐車場1万円
現況の把握
今回は収支計画表が存在したため、まずはその計画の概要を確認することから始めました。この概要書で製作意図のアウトラインが見えてくるため、こういった概要書はとてもありがたく感じます。
まずは賃料設定から検証を始めました。一部屋平均でおよそ7.0~8.0万円程度で運用というイメージで、駐車場は別途料金として1台1万円での設定のようです。次にその設定根拠となる設備や意匠などを確認し、同時に資金調達計画や総施工費なども確認した上で設定利回りの根拠を割り出しました。
問題点の割り出し
入居が決まらないということは、必ず問題点が存在します。その問題を解決しない限りは事業設計の根本改善にはたどり着かないために、非常に重要な工程です。今回の問題点は大きく分けて3点ありました。設定賃料、ターゲット、運営費用の3点です。
設定賃料のミス
まずは近隣のエリアの相場を調査し、平米単価と賃料平均を算出します。この際のサンプルは多ければ多いほど精度が上がるので、色々な手法で集めて比較を行います。
比較した結果、賃料平均価格から本物件は1万円~2万円ほど賃料が高額な設定になっていたことがわかりました。事業計画のシミュレーションシートで相場通りの算出にすると期待利回りに届かないとみたのか、賃料に大きな負荷を掛けたと思われます。
ターゲットの不在
ファミリーなのか、dinksなのか、カップルなのか。また、年齢層や職業などどの層を中心としたイメージなのか。そういったターゲット層が初期設定されておらず、キャッチコピーを作成することが出来ないのは大きなマイナスです。ターゲットの設定は市場に対する「わかりやすさ」を表示し、数多ある建物からこの建物を選んでもらえる明確なサインとすることが出来ます。
不可解な運営費用
OPEX(Operating Expense)、いわゆる運営費に関しては事業計画から管理フィーと返済費以外が欠落しており、キャッシュフローの計算が出来ない状態でした。特に除雪費の予算計上が抜けていることは大きく、これだけでも年間で60万円以上の差異が生じています。
また、20台分の駐車場に冬期の堆雪場を設けるなどの除雪対策を怠っていたために除雪費用自体も高額なプランしか選択できなくなっていたことも運営改善において頭を悩ませるポイントでもありました。その他高額なガスコストの設定などの手直しも必要で、見直すための調査をすればするほど問題点が山積みになっていきました。
改善プランの作成と実施
現状の報告と承認
前述の問題点を数値とテキストに起こしてサマリーを作成し、現状と改善すべき目標を可視化します。
- 賃料と駐車場および駐車場料金の適正化
- キャッシュフローの根拠立て
- 入居者属性のターゲット設定
- 建物ブランディング
今回は上記の4分類を実施し、そちらを基にオーナーへの報告を行いますがこのフェーズが改善プロジェクトの中でも割と大変な部類です。元々無理のある形で設計されている賃料を取り崩して再構築するために減収前提での提案であること、リブランディングのために支出がいくばくか発生することから相互の意識のすり合わせが重要なフェーズです。
必ずサマリーを起こしてこの計画に対して承認を得ます。今までが雑多な計画と口頭で実行していて成果が出ていないため、手間を掛けてでも一つ一つの行動に対して丁寧に説明を行うことが大切です。
査定の完了
いよいよ再生プロジェクトの実行です。満室までの期間を「6ヶ月以内」と設定し、プロジェクト開始から1ヶ月で2件の申込獲得が1つ目のマイルストーンと計画しました。
結果的には全て順調に進行し、3ヶ月後には満室になったために事業の再構築は成功と言える結果となりました。キャッシュフローは当時計画よりも減少したものの月次、年次ともに黒字に収まり、10年後には屋根・外壁の修繕費用も確実に捻出出来る状況まで持ち直すことができました。
分析と予測が出来れば、大体の査定失敗による経営不振は復元することが出来ます。闇雲なAD増額や賃料下落、誰かの助言を鵜呑みにして実行することはただのギャンブルで不動産経営ではありません。
正しい助言を出来るパートナーが不動産管理の本質ですので、時に査定は意に添えないものを提出しなければならないときもあります。しかし、不動産運営に芯がないものは数年後には厳しい局面に突入してしまいます。実際にそういったケースを多数目の当たりにしてきたため、衝突があったとしてもきちんと分析結果と改善提案は行うように心がけています。特に札幌では除雪費用などの予算計上で大きくキャッシュフローに変化があります。不動産を購入・運用する場合は必ず運営費用に関しても細かくチェックするようにしましょう。
今回は前項①~④のそれぞれの項目に関する説明は割愛しますが、別のエントリーでまた説明しようと思います。